走った

 信号を渡ろうとすると、サイレンと共に消防車が走ってきた。
「通行人の方、ちょっと止まってくださーい」


 そう言って先を越された。
 こんなときに。通り過ぎるとオレも走った。急がなければ。


 閑静な住宅街のこと、消防車が来ようものなら家にいるおじいさんおばあさんが、何事かとわらわら出てくるのがどうやら普通のようだ。
 そう思っているそばから目の前のドアが開き、おばあさんが出てきて通り過ぎていった消防車を見た。タイミングが良かったことで見つめてしまったらしく声をかけられた。
「どこへ行くの?」


 彼女は走っているオレに問うが、真意を量りきれずに戸惑ってしまった。関係者だとでも勘違いしたのだろうか。
「あ、え……関係ないっす」
 走りながら答えた。その間一秒強。


「Oh, I'm late. I'm late.」
 心の中で呟きながら走った。


 オレはバイトに遅刻しそうになって走った。